論文が出るまでに2年かかった話

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 2019年の9月に実験・評価が終わって,LREC2020に出すための論文を書いていた。英語論文の文が持つ修辞機能(修辞構造というとRSTが浮かぶが,この概念はCLから言語学に輸出されて発展している)の評価用データセットを作り,既存手法の評価まで行ったものであった。途中で,さらに定型表現の抽出手法を評価する目的でも使えることに気づいたので内容を追加していたが,ページオーバーになってしまったので,別の論文として出すことになった。

 12月の頭にLRECの投稿を済ませ,入りきらなかった内容をどこへ出すかという話になった。IJCAIの締切が近かったのでここに出そうという流れになった。AI分野とは言い難いと思っており気が進まなかったが,一旦原稿を書き上げた。しかし,やはり内容が薄いということで,投稿は立ち消えになった。

 評価手法だけでなく,抽出手法も同時に提案すればフルペーパーになるだろうということで,急遽抽出手法にも取り組むことになった(これは論文を出した後にやろうとしていたことだ)。抽出手法が作れればそれはそれで大きな仕事のはずなのだが,なんとなくオマケのようになってしまうので悩ましかった。

 結果も出たので,COLINGに出すことに決めた。またもページオーバーだが,なんとか削って英文校正に出したタイミングでCOLINGの延期が決まった。延期は結構だが,締切まで延長されて困り果ててしまった。

 それで,ジャーナルに出そうという話になったのだが,どこに出すのか。私が知っているNLPのジャーナルは,CL,TACL,NLE,自然言語処理くらいだった。更に,学位取得の観点から,査読の早いところが良いということもあり,決めかねていた。結局,Expert Systems with Applicationsというジャーナルに出すことになった。今見るとどこにも書かれていないが,first decisionが早いように書かれていた(のだが,first decisionの意味が違ったかもしれない)。

 ジャーナルに出すならもっと加筆しないといけない。しかしのんびりしている時間はない。急いで体裁を整えていった。ジャーナルにも色々あるが,エルゼビアみたいにフォーマットが出版社で統一されているようなものは向こうが編集するので,原稿の見た目はそんなに気にしなくても良いものと思っていたのだが,テキスト部分についてはそうであるものの,図表は別で出さねばならず,ファイル名にも指定があり,細かな作業がとても面倒だった。

 結局投稿できたのが,2021年の5月下旬である。7月上旬に査読中になった。10月上旬に再度査読中になった(日付だけ更新された)。2月頭にrevisionになったので,3日後に修正稿を提出した。1週間で査読中になった。8月末にアクセプトされた。

 査読に1年3ヶ月かかったことになる。これが遅いのか早いのかは分野やテーマによって変わるけれど,CSの応用系でこれでは競争力がない。同じ雑誌でももっと早く査読は終わっているので,自分だけ特に時間がかかったことになる。途中数回エディタに催促のメールを送っているのだが,全て無視されている。そこで出版社にメールをしていたのだが(こちらはすぐに返事が来た),査読者が見つからないのが原因だった。しかしrevisionの後半年以上かかっているのはなぜなのか。査読者からの質問はどれも軽いもので,原稿にはほとんど修正が加わっていないというのに。査読する方も半年も放置していたら内容を忘れてしまいそうだ。

 アクセプトされてからは爆速というべき速さで進んだ。エルゼビアの仕事は早いのだろう。翌週にはもうdoiが付与されて,ScienceDirectにページが出来上がり,OAの設定をしたら支払前でもすぐにOAになった。

 結局論文を出すまでのゴタゴタで7ヶ月,査読で1年3ヶ月,計2年もかかってしまった。全くの想定外で,ずっと悶々としていたのだが,出版に1~2年かかるのが当たり前の分野の研究者たちはこれが常だと思うとよく耐えられるなと驚くばかりである。

 ところで,狭くとも当分野の博士論文の構成は,1章に1つの投稿論文が対応することが多いように思われる。私の博論はそうなっていない。私のやった仕事はデータ作成,分類,抽出,評価,検索とあるのだが,先述のような経緯が(他にも)あり,これらが1対1で論文に対応していないのである。結果として内容の再構成が必要になり大変面倒に・・・